

彼の内の司祭と沙門が死ぬまで、商人となり、ばくち打ちとなり、酒飲みとなり、欲張りにならねばならなかった。
(中略)放蕩児シッダールタも、欲張りシッダールタも死ぬまで。
(本文P128より)
ヘルマン・ヘッセ(1877~1962)はドイツの詩人で、小説家です。
牧師の家に生まれたので神学校へ進学するんですけど、
「牧師なんてまっぴらごめんだ!詩人に以外にはなりたくねぇ!」
と、盗んだ牛にまたがって走り出した15の夜かどうかは知りませんが、とにかく神学校を脱走します。
脱走するあたりが、詩人て感じです。
そして、書店員から晴れて作家として成功するわけですね。
ヘッセは戦時中に非戦論を唱えて苦境に陥り、ノイローゼになってしまいます。
紆余曲折あって、戦争も終わり、ヘッセはボヘミアン的に生きようとします。
人間の心の平和を追求する詩人でありましたから、もう戦争でほとほと疲れちゃったんですね。
そんな折、書かれたのがこのシッダールタです。
シッダールタとは、釈尊の出家前の名前です。
シッダールタの名前を借りた、ヘッセ自信の宗教的体験小説なのです。
若きシッダールタは優秀で美しい、バラモンの子。
でもちょっと優秀すぎたんですよねー。
賢こすぎて奇天烈に成長する人いますよね。
シッダールタもそうです。
斜め上の方法で悟りを得ようとします。
シッダールタには幼馴染のマブダチ、ゴーヴィンダがいます。
彼はそうですね、善良で真面目で、とてもピュアな男です。
さながら悟空とジェロニモなのです。
悟空はそもそもサイヤ人だしドラゴンボールで生き返るというチートで強くなっていくわけですが
ジェロニモはどんなに真面目に修行を積んでもしょせん人間。
シッダールタは親友のゴーヴィンダと共に、仏陀のもとへ解脱の道を請いに訪れ、しばらく弟子として過ごすのですが
なんせ天才のシッダールタですから、仏陀の教えに従うだけじゃ満足いかないわけです。
おりゃあ一人でやっちゃるけん、と仏陀の元を去ります。
「誰の教えもいらねぇ。おれはおれの弟子となるのさ。」
ロックです。
シッダールタはロックンローラーなのです。
そんななか、やたらエロい遊女、カマーラと出会います。
「YOUすんごい美人だね。あ、別にやましい気持ちなんかないよ。そう言いたかっただけだし。」
とチェリー丸出しでシッダールタが言うと
「髪はボサボサでびた一文もってなくて、『きみは綺麗だね』なんて言いにくる奴ぁいないね。あんたなんてヤマイヌといっしょさ。」
カマーラに軽くあしらわれてしまいます。
「おれ、断食とか得意。あ、あと詩も得意。」
食い下がって、シッダールタはカマーラに詩を贈ります。
その詩のお礼に、カマーラはチューをしてあげるのですが、これで火がついたシッダールタ。
「世の中金じゃね?」
急に俗世間に身を落とすシッダールタ。
女の力は偉大ですね。
シッダールタはカマーラに紹介してもらった金持ち、カーマスワーミという商人の下で相談役として暮らします。
コンサルタントみたいなもんですね。
生来秀才のシッダールタ、商売や取引のコツをつかみ、カーマスワーミを儲けさせたわけです。
シッダールタはカマーラから愛欲を学び、カーマスワーミのもとで商売と博打と食や欲を憶えました。
そして、その時は急にくるんです。
彼は恐ろしい文字を読んだ。細い線とかすかなしわでできた文字、秋と老いを思わす文字だった。
(本文P104より)
カマーラがババァになったから、気づいたんです。
「おれこんなことしてる場合?」って。
サイテー野郎ですね。
しかもカマーラは妊娠してるんですよ。
シッダールタはなにもかもイヤんなっちゃって、こんな自分イヤ!死にたい!トラに食われて死んじゃえばいいんだ!!と自暴自棄になります。
このときもう40過ぎてるんですよ。
こどもか!
とはいえ、腐ってもバラモンの子、ふて寝していたら、徐々に我に返って、神聖な気持ちになっていきます。
ふて寝の最中、自分がトラや蛇に襲われないよう見守ってくれる沙門の男がいました。
この男がなんと、幼馴染のええやつ、ゴーヴィンダです。
ゴーヴィンダは最初、シッダールタであるということに気づかないのですが(金持ちの服を着て俗っぽい恰好をしていたので)気づいてからびっくりするんですよね。
「ちょ、おまえ何してんの!」
「え?修行ですけど?」
「そんなケバい恰好で?そんな修行者見たことないんですけど!」
「見たことないのはもっともだ。でも実際いるんだもの、ここに。」
シッダールタはゴーヴィンダの前ではスカすくせがあるんですね。
無理もないでしょう、秀才天才のシッダールタが、見るからに堕落してさっきまで死のうとしてたんだもの。
そういうとこ、好きやで、シッダールタ。
その後、シッダールタはふたたび渡し守などをしながら静謐な生活を育むのですが、
カマーラと自分の忘れ形見である息子がやってきて、ジェームスディーンよろしく理由なき反抗をくりだし、ほとほと困らせられます。
なんという昼ドラ展開。
この本には、悟りに至るまでの、ほんとに人間臭い求道者のシッダールタが書かれています。
ですから、なんでも三日坊主のあなたも、つい暴飲暴食しちゃうあなたも、シッダールタに親近感を覚えるはずなんです。
むしろ、ゴーヴィンダのほうが覚者に近いんじゃね?と思うはずです。
シッダールタの解脱以降の話はまた別の作品でお読みください。
すごい賢いけど誘惑に弱い人間丸出しのシッダールタ兄貴に会いたい方は、おすすめです。




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